“生きかたを、遊ぶまち”の本質的な価値を探る

星天qlayで生まれる社会的インパクト

2026/7/17 02:26

相鉄アーバンクリエイツ×相鉄ビルマネジメント×YADOKARI

  • インパクトマネジメント支援

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相鉄本線の星川駅と天王町駅の間に広がる高架下空間商業施設「星天qlay(ホシテンクレイ)」。“生きかたを、遊ぶまち”をコンセプトに掲げ、施設の企画開発を担った株式会社相鉄アーバンクリエイツ、運営を手がける株式会社相鉄ビルマネジメント、そして企画運営パートナーのYADOKARI株式会社が三位一体で取り組む、ユニークなエリアブランディングの取り組みです。この施設で今、社会的インパクトの可視化プロジェクトが進んでいます。特徴的なゾーニングによるハードとYADOKARIが牽引するソフトの融合が積み上げてきた取り組みの価値をどう示すのか。三社のキーパーソンに話を聴きました。

語り手:
筒井 和貴 |株式会社相鉄ビルマネジメント まち・地域共創事業部 課長
小杉山 祐昌|株式会社相鉄アーバンクリエイツ 開発推進部 課長 沿線活性化担当 課長
小田 千華子|株式会社相鉄ビルマネジメント まち・地域共創事業部 主任
木村 勇樹 |YADOKARI株式会社 コミュニティオペレーションユニット

聞き手:
長友 まさ美|アンドパブリック株式会社

 

売り上げだけが評価軸で良いのかーー可視化に挑んだ理由


長友 最初に、社会的インパクトの可視化に取り組んだ理由や背景を教えてもらえますか。

筒井 エリアブランディングの重要性や社会的意義については、多くの人が感覚的にその必要性を理解している一方で、「なぜ企業が取り組むのか」「どのような社会的インパクトにつながるのか」については、これまで十分に可視化することができていませんでした。

星天qlayの取り組みが最終的に目指すものの一つに、「定住人口の増加」があります。しかし取り組みがいきなり定住へとつながるのではなく、その過程には地域との接点が増え、関係人口が広がり、地域への愛着やシビックプライドが育まれていくといった、複数の変化の積み重ねがあると考えられます。

こうした多様な要素が、どのような道筋で定住人口の増加へとつながっていくのかを可視化することは、星天qlayの取り組みの意義や価値を外部に伝えるうえで、大きな一歩になると考えました。

小杉山 星天qlayのコンセプトや新しい取り組みの意義に共感が集まり、施設開発はスタートしました。一方で、さまざまな取り組みを進めるなかで、「このプロジェクトの成果とは何なのか」という問いはずっと持ち続けていました。

20年かけて育てていく街の評価軸が、売り上げだけで本当に良いのだろうか。もちろん事業としての成果は大切ですが、それだけでは捉えきれない、個人の変化や地域の変容も確かにあるはずです。では、そうした変化を事業の時間軸や成長軸とどう重ね合わせていけばよいのか、との問いでした。

ロジックモデルをつくって良かったこと


長友 2024年に、三社でワークショップを行い、ロジックモデルを一緒に策定しました。その後は策定したロジックモデルに込められた事業意図について相鉄グループの皆様への説明会に加え、2025年度はインパクトデータを収集した上での意味づけや振り返りの対話を行ってきました。一連の取り組みは、皆様にとってどのような意義や価値があったと感じていますか?

筒井 “生きかたを、遊ぶまち”というコンセプトは掲げていましたが、それが具体的にどのような姿を指すのかについては、関わる人それぞれの捉え方があり、必ずしも一つの言葉にまとまっているわけではありませんでした。

今回ロジックモデルを作成したことで、私たちが目指している姿や、その実現に向けた道筋を言葉にすることができました。感覚的に共有していたものが整理され、チーム内外によりわかりやすく伝えられるようになったと感じています。

小田 これまでも、なんとなく「どこを目指していきたいか」という感覚はありました。ただ、改めてデータや指標として見てみると、まだ十分に言葉にできていない部分や、もう少し力を入れるべきところが見えてきたと感じています。

それは、テナントの皆様との関係においても大事なことだと思います。星天qlayでは、テナントの皆様にも日々の売り上げをつくるだけではなく、まちづくりやエリアブランディングに一緒に関わっていただくことを大切にしてきました。ただ、取り組みの意義や具体的なメリットが見えにくい状況ですと、協力のしづらさもあったのではないかと思います。

今回、インパクト指標を設定し、取り組みの成果や変化を可視化したことで、エリアブランディングに関わることが、地域だけでなくテナントの皆様自身にもどのような価値として返ってくるのかを、より具体的に共有できるようになりました。

“生きかたを、遊ぶまち”というコンセプトのもとで実現したかったことを、テナントの皆様と一緒に育てていくための土台ができた。今回の取り組みは、その一歩になったと感じています。

木村 設定したインパクト指標に関するデータを収集した後は、集まってきた結果をどう読み解くのかについて、ディスカッションを重ねました。そのうえで、最終的にインパクトサマリーという形でグラフィカルにまとめていただいたことで、社内でも社外でも、星天qlayの意義をとても説明しやすくなったと感じています。

単に数値を並べるのではなく、「この取り組みは何を大切にしていて、どのような変化を生み出そうとしているのか」を共有できるものになりました。私たち自身が担当を離れた後も、「この考え方で進めていくんだ」と立ち返ることのできる、道しるべのような存在になったと感じています。

小田 開発フェーズから運営フェーズへのバトンタッチがなされたあとに「どこを目指してきたか」について頭の中を整理することがしやすくなったのも良い変化だったと思います。「“生きかたを、遊ぶまち”って何だろう?」って立ち戻って考えられるものになったのが良いなと。

共通言語が生まれたーー周囲の理解と反応


長友 取り組みに対して、周囲にどのように反応があったのかお聞かせください

木村 星天qlayの取り組みにおいて、コミュニティビルダーの存在はとても重要です。一方で、私たちが大切にしている考え方や、目指している姿を言葉で共有することには、これまで難しさもありました。

「こういう場をつくりたい」「こういう関係性を育てたい」と伝えても、それが具体的にどのような状態なのか、どこに向かっているのかまでは、なかなか共有しきれない部分があったと思います。

今回、ロジックモデルやインパクト指標として目指す姿を整理したことで、コミュニティづくりを担う方々に対しても、私たちの思いや方向性をより伝えやすくなりました。単なる運営上の役割ではなく、星天qlayが目指すまちの姿を一緒につくっていく大切なパートナーとして、共通の言葉を持てるようになったと感じています。

小杉山 正直なところ、インパクト指標の考え方が社内に十分浸透しているかというと、まだ道半ばだと感じています。ただ振り返ってみると、これは星天qlayだけでなく、相鉄線沿線のエリアマネジメントやまちづくりを進めていくうえでも、着実に求められている取り組みだったと思います。

従来のように「KGIからバックキャストしてKPIを設定する」という考え方だけでは、このプロジェクトが生み出す価値を十分に示しきれないのではないか。そう感じていたなかで「インパクト指標」という考え方に触れたとき、個人的にはまさに求めていた視点だと感じました。

同じ時期に進んでいた他の開発や、相鉄線沿線でのエリアマネジメントの取り組みにおいても、同じように「事業成果だけでは捉えきれない価値をどう可視化するか」という問いがありました。星天qlayの評価軸を考える過程で、相鉄線沿線のまちづくりやエリアマネジメントと接続することで見えてきた視点も多くあったと感じています。

変化の兆しとなる小さな手応え


長友 インパクト可視化の取り組みが生み出した効果を教えてください。また、今後期待することはありますか?

筒井 ロジックモデルやインパクト指標を策定したことで、まず見えてきた効果の一つは、当初から重視していた来訪者数などの目標について、一定の成果を確認できたことです。星天qlayが目指していた「人が訪れる場をつくる」という点については、具体的な数値を通じて、着実に形になってきていることが見えてきました。

一方で、来訪者数だけでは捉えきれない変化も少しずつ見え始めています。たとえば、企業や地域との関係性、場に関わる人たちの動き、エリアマネジメントとしての手応えなど、次に見ていくべき変化の兆しが出てきていると感じています。

小田 ロジックモデルや指標をつくる過程で、関係者と一緒に「何を大切にしているのか」「どこを目指しているのか」を話し合えたこと自体も大きな効果でした。開発段階から運営管理へと引き継がれていくなかで、単に施設を引き渡すのではなく、目指してきた考え方や価値観も一緒に共有できるようになったと思います。

自分自身にとっても、頭の中にあったことを整理し、星天qlayがどこに向かっているのかを改めて言葉にできたことは、とても大きな意味がありました。

木村 お二人がおっしゃっていたことは、私自身も強く共感しています。今回の取り組みを通じて、星天qlayというプロジェクト、あるいは事業全体の地図のようなものが、格段に理解しやすくなったと思います。

これまでは、星天qlayが大切にしている価値や目指している方向性はありながらも、それをどのようなポイントで見ていけばよいのかが、必ずしも明確ではありませんでした。ロジックモデルやインパクト指標を整理したことで、「どこを見れば、この取り組みの価値を捉えられるのか」が共有しやすくなったと感じています。

その結果、星天qlayが生み出している価値を、私たち自身もより客観的に受け取れるようになりました。感覚的に大事だと思っていたことを、共通の視点で確認していくための下地ができたことが、一番大きな効果だったと思います。

インパクトマネジメントの「壁」を乗り越えるために

長友 とはいえ、やっぱり「社会的インパクト」というのはなかなか持続的に仕組みが回っている企業も少ないと思っています。どうしたら持続的にマネジメントサイクルが回りそうかを考えていくことが重要ですよね。実際に取り組まれているなかでの難しさや今後取り組んでいきたいことについて教えてください。

小杉山 今回の取り組みを通じて、テナントの皆様やイベント参加者様との関わり、アンケート調査などからも、理解や関与の濃度が高いところでは、初期アウトカムに近い変化が生まれ始めているという兆しを見ることができました。

今後は、住みやすさやウェルビーイングといった変化も、その地域の特性と結びつきながら表れてくるのではないかと思います。星天qlayの取り組みを通じて、「生きかたを遊べる沿線地域」を実現し、新たな文化や豊かさが創造され、発信されていく循環を評価していきたいです。

小田 そうですね、中期的・長期的な効果になればなるほど、成果を示すハードルは高くなると思っています。だからこそ、一つひとつの変化を丁寧に見ていき、積み上げていくことが大事だと感じています。

短期的な効果をしっかり捉え、その先にどのような地域への波及が生まれているのかを見ていく。その積み重ねによって、星天qlayが「変化を育てるまち」であることが、より多くの人に伝わっていくのではないかと思います。そこは、今後も継続的に取り組んでいきたいところです。

また、今後期待していることの一つは、星天qlayの取り組みがテナントの皆様にとってどのような価値として返ってくるのかを、より具体的に示せるようになることです。経済的な効果はもちろん、来街者との接点や、地域との関係性、共創のエピソードなどが数字や事例として見えてくると、テナントの皆様にとっても参加する意義がより伝わりやすくなると思います。

特に、個人で判断できるテナントの皆様だけでなく、会社として意思決定を行うテナントの皆様にとっては、「この取り組みに関わることで、自分たちにどのような効果があるのか」を説明できる材料が必要になります。数値やエピソードとして可視化されたものがあれば、店舗責任者が本部に説明しやすくなったり、社内で理解を得やすくなったりするはずです。

そうした根拠が蓄積されていけば、私たちとしても「だから一緒にやりましょう」と、より説得力を持って伝えられるようになると思います。そこに、今後の大きな期待があります。

木村 以前話題に出ていたような、知り合ったテナントの皆様の店長同士からバンドが生まれて演奏につながっていくような出来事も、星天qlayらしい変化の一つだと思います。事業として設計された取り組みだけでなく、趣味や関心をきっかけに人がつながり、そこから新しい活動が自然に生まれていく。そうしたことが起こりやすい場所になっていることに、とても価値を感じています。

何気ない出会いやつながりが、少しずつ形になり、また別の動きにつながっていく。そういう意味での「変化を育てる」ということが、星天qlayの中で確かに起き始めているのだと思います。

今後は、こうした変化の兆しを私たち自身がきちんと捉え、ポイントとして押さえていくことが大切だと感じています。そして社内外に対して、「星天qlayが生み出している価値とはこういうものなんだ」と示せるようにしていきたいです。

筒井 今後は、この取り組みを継続的に運用する仕組みにしていくことが重要だと感じています。担当者が変わったとしても、また経験の浅い担当者であっても、一定の考え方に沿って運用できるように、評価や改善のプロセスをある程度型化していく必要があると思います。

一方で、すべてを固定化すればよいわけではありません。エリアブランディングの大きな役割の一つは、時代の変化や地域の変化を捉えながら、必要に応じて取り組みを見直していくことだと思います。あらかじめ定めた評価軸をもとにしながらも、状況に応じて設計を微修正したり、場合によっては再設計したりすることが、次の改善につながっていくのではないでしょうか。

仕組みとして回せるようにしながら、同時に柔軟性も持たせる。その両方を大切にしながら、動かし続けていくことが重要だと感じています。そこに難しさもありますが、同時にエリアブランディングの面白さや意義もあるのだと思います。

インパクトの可視化に挑む仲間たちへ


長友 最後に、社会的インパクトを育む挑戦をする人へのメッセージをお願いします。

小杉山 私は「星天qlay」ができて良かったと思っています。「堅くて暗い」、そんなイメージに覆われた高架下にこんなにも関心を寄せ、活動をともにしてくれるテナントの皆様や地域プレーヤー、クリエイターがいる。そうした人たちの営みによって確実に「賑わい」が創出され続けています。私たち自身もまだこれからですが、同じような取り組みを進める仲間が増えていくことに期待しています。

小田 エリアブランディングやまちづくりの価値を、売り上げや来訪者数だけでなく、地域や人の変化として捉えようとする取り組みが、いろいろな場所で行われるようになるとよいと思います。そうすれば、「こういうやり方がよかった」「こういう見方ができた」といった実践知を、進めながら共有し合えるようになるはずです。

星天qlayの取り組みも、その一つとして発信されていくことで、似た課題意識を持つ人たちとの接点が生まれていくのではないかと思います。同じように試行錯誤している人たちと意見を交わしながら、互いに学び合える関係が広がっていくことを期待しています。

筒井 私たちの取り組みも「答え」ではなく「チャレンジ」なので、こうした社会的インパクトを可視化し、活用していく取り組みが各地でもっと広がることで、共有できる学びや気づきがあると思っています。なので、こうした社会的インパクトに関する試行錯誤に取り組む仲間が増えることを願っています。

長友 “生きかたを、遊ぶまち”というコンセプトを軸に、高架下から地域へと連鎖する価値を、データとストーリーで示していこうとする三社の挑戦がよく伝わってきました。社会的インパクトの可視化は完成形を目指すものではなく、継続的に問い続けるプロセスそのものに意味がある。そのことを改めて感じた対話でした。本日はありがとうございました。

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