職員自ら描く「まちの未来」。

2026/5/18 03:43

北海道厚真町

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新千歳空港から車で35分、自然に囲まれた実り豊かなまち・北海道厚真町。広大な山林から太平洋まで広がるこの町には約4200人が住み、厚真川水系を利用した稲作、太平洋での漁業などさまざまな産業が営まれています。浜厚真海岸には、年間6万人ものサーファーが集まります。

サーファーと厚真町の海

2024年4月。厚真町では、これまでは外部のコンサルティング会社に委託していた「総合計画づくり」を、初めて職員主導で行うことにしました。アンドパブリックの桑原憂貴は、副業型地域活性化起業人として2年間毎月厚真町に通いながら、職員のみなさんとともに考え、ともに悩み、ともに試行錯誤する機会をいただきました。

今回はそんな2年間の振り返りとして、住民の声を聞きに何度も地域に足を運びながら、職員自らが取り組んだ総合計画策定の軌跡ついて、担当である「まちづくり推進課」のみなさん(2026年3月当時)にお話を伺いました。

厚真町役場の前で並ぶ職員5人の写真
語り手:厚真町 まちづくり推進課(写真左から)
矢代 直樹・北川 桂・宮下 桂(課長)・江川允典・菊地崇斗 
※所属は2026年3月当時 

聞き手:桑原 憂貴|副業型地域活性化起業人/アンドパブリック株式会社

手触り感のある総合計画を自分たちの手でつくる

宮下桂課長の写真

桑原:まず、従来は外部に委託していた総合計画の策定を、自分たちの手で行うことになった経緯を教えてください。

宮下:私がまちづくり推進課長になる数年前から、実は心のなかで温めていたことでした。前回の第4次総合計画の策定にも別の立場で関わっていたのですが、きれいな冊子として完成したものの「手触り感がない」と感じていて。事業評価の節目に冊子をめくるくらいで、普段から使いこなすものになっていない。指標を一生懸命設定したわりに、本当にこれで合っているのかと疑いながら運用しているなど、反省点があり、もっと現場に近い職員が策定プロセスに携わる形にしていかないといけないと考えていました。

北川:まちづくり推進課に配属される以前からKPI(指標)を使っていましたが、事業改善や事業の統廃合につながるような意味のある評価はできていないのではという問題意識がありました。そこに「社会的インパクト」の視点を持ち込むことで、その事業が本当に地域をよりよく変えるものなのかを評価できるようになり、さらには事業の統廃合にも繋げられるかもしれない、と考えていました。現在の部署に異動になった際に、「地域活性化起業人としてアンドパブリックの桑原さんに伴走してもらいながら、自分たちで社会的インパクトを実装した総合計画を作ってみよう」という話になったのです。

桑原:どんなプロセスで総合計画づくりを進めてきたのか改めて教えてください。

北川:まずは「総合計画策定方針の作成」からスタートし、行政としてやるべきことを分類した大きな施策の方向性をまとめました。同時に、すでに走っている総合計画の下位計画となる個別計画(分野別計画)も押さえるように整理。また、各施策の対象者はどんな方々かをイメージした上で、それぞれの対象者から「困りごと」や「願いごと」といった生の声を集めるには、アンケートやインタビューなどどんな方法が適しているのかを考え決めました。

住民アンケートによるニーズ調査では、全戸から無作為抽出した15歳以上の町民1,000人を対象に「地域幸福度(ウェルビーイング)指標」のアンケートを実施。これにより町の全体像を俯瞰しつつ、同時に、住民のみなさんのリアルな「生活の実感」を把握するために中高生、女性、一般向けの3つの対話のワークショップを実施しました。実際にはこうした対話のワークショップに全員が来られるわけではないため、中高生の力を借りながら、シニアが集まる施設に伺ってインタビューも実施しています。

北川:その後は、各課横断で選出された職員からなるプロジェクトチームが中心となり、集めてきた多様な課題を構造化するワークショップを実施。重点アウトカム(成果)を特定したのちは、社会的インパクトの設計図であるロジックモデルづくりも職員たちで実施し、最終的には担当課とコミュニケーションを繰り返しながら指標まで決めていきました。

図1:総合計画策定進め方MAP 前半
図2:総合計画策定進め方MAP 後半

(総合計画策定進め方MAP)

桑原:2年間のプロセスの中で、最も大変だった点はどこでしょうか。

宮下:大変だと思ったことはあまりありません。強いて言うなら数ある施策を18施策に絞り込んでいく作業に時間がかかりましたね。2年目は時間との戦いでした。議会への報告、パブリックコメントのタイミング、内部の策定委員会など……組織として合意形成をしていくプロセスは思っていた以上に大変で。中身をつくりあげることに集中しすぎて、それ以外への目配りが甘かったなと後から気づいたんです。

北川:宮下課長も私も、どちらかというと新しいものを取り入れようとするタイプなんですが、町役場全体を見れば、慎重な人もいるし、従来からの総合計画策定方法がよいと考える人もいます。計画策定の過程で全員が足並みをそろえられるように配慮したつもりでしたが、それでも意識の開きがあったのではないかと思っています。大切なのはテクニックやスキルではなく、結局「人に対してどう丁寧に関わるか」なんだなと感じました。

北川さんの写真

桑原:今後、同じように総合計画を自分たちで書き上げる場合、多くの職員と一丸となって進めていくために「気持ちのすり合わせ」に関する壁はどのように乗り越えられそうですか。

北川:宮下課長の「100点は無理。100点取りに行こうとすると辛くなるだけだから。」という言葉に救われました。だからといって最初から諦めるのではなく、新しい取り組みに戸惑っている人や、取り組みに前向きではない人たちの存在を最後まで意識し続けることが大事ではないかと思います。

江川:「何のためにロジックモデル*を作るのか」「それによって何がどう良くなるのか」についての理解を、策定プロセスの中で丁寧に浸透させていくこともとても重要だと思います。「ロジックモデル」「社会的インパクト」といった新しい概念や手法を上から押しつけたいのではなく、日々の仕事の意義をみんなで確認するためにより実態にあった手法を導入したんだということが伝わると、周囲の捉え方や認識は随分変わるはずです。

*ロジックモデルとは
社会的インパクトの設計図。インプット(投入資源)→アクティビティ(事業活動)→アウトプット(直接的結果)→アウトカム(望ましい変化)→インパクト(社会環境変化)という因果関係を整理し、図示したもの

図:厚真町「子ども・子育て支援の充実」のロジックモデル(2026年3月)

(厚真町「子ども・子育て支援の充実」のロジックモデル|2026年3月)

桑原:みなさんが策定プロセスで新たな挑戦をしたり、前向きに進められている姿はとても印象的でした。

菊地:飲食店を住民のみなさんが参加をして行うワークショップ会場にして、ピザを食べながら対話をするなど、これまで行政としてやってきていないことに取り組みました。細かなことかもしれませんが、夏休みに開催する中高生ワークショップのときには、せっかく参加しれてくれるのだからと、子どもたちにお菓子のリクエストを聞き、リクエスト通りのお菓子を用意するために郊外まで買いに行ったりも(笑)。結局、楽しく取り組めるのが一番だと思っています。総合計画をつくるというプロセスは堅苦しいものに思う人もいるけれど、行ったらお菓子があるとかごはんが食べられると気軽に来ていただき、肩肘はらずに話せることで、普段思っている本音、つまりリアルな「生活の実感」が集まる。それが大切だよねという発想でした。

北川:アンケートの回収率が低いことへの対策として、防災無線でアンケートの呼びかけを直接職員の声で実施したこともありましたね。いつもはAIの音声ですが「職員の肉声でやることでアンケートに協力してくれる人が増えてほしい」と私たちの声で住民のみなさんへお願いを流しました。。ロジカルな理由はありませんでしたが、とにかくやれることはやってみようと。

宮下:やりたいと思ったことに対して、「それはやりすぎだろう」とブレーキをかけることはほとんどなく、とにかく「やってみよう!」を貫きました。課長である私が言うとみんな聞かざるを得ないので、できるだけそれぞれの思いや力を発揮できるように遠慮していたつもりです。


ロジックモデルが生み出した、小さくて確かな変化

桑原:2年間の取り組みを通じて、役場の中で何か変化は生まれましたか?

北川:人事を担当する職員が「今までは研修を何回やったか・何人参加したかという指標しか持っていなかったけれど、これからは研修の満足度や参加者の行動変容を指標に置いて測っていきます」と言っていたんです。うれしかったですね。

宮下:自分たちの仕事の意味自体が変わってきているのではないかと思うんです。なんとなく数字を取りに行くのではなく、自分たちの仕事の本質が何なのかを問いにいく。それが仕事の質を上げることにつながって、結果、組織全体を良くして、まちが良くなることにつながる——そういうつながりの解像度が上がってきていると思います。

これからの厚真町への期待と願い

矢代さん、江川さんの写真

桑原:この2年間が、今後どんな変化につながっていってほしいですか。

矢代:役場で取り組まれている事業のなかで、目的を果たして役割を終えた事業が無くなり、事業数が絞られていくなどの変化が起きるといいなと思います。一人あたりの職員の負担が減り、新たな挑戦ができるような良い変化が起きることが願いです。確かに短期的に見れば、指標のデータを集めるための時間や手間がかかるかもしれない。ですが、その先において、本当に大変ななかで頑張っている職員一人一人の疲弊を防ぐことができ、時間をこれまで以上に有効に使えるようになるということを信じてやってきました。

北川:作ったロジックモデルを定期的に見返すなかで、「私の仕事はこの幸せな光景につながっているんだ」と気づいたり、感じられる職員が一人でも増えてほしいと願っています。それが働きがいにつながり、厚真町にも還元されていくと思います。

宮下:職員の仕事のやりがいの実感が上がっていくことを願っています。自分の仕事が地域の変化につながっていると感じられた瞬間に、一見派手ではない地道な仕事も多いなかでも、やる意味を味わいながら仕事と向き合えるのではないかと思います。

菊池さんの写真

桑原:最後に、職員自らで総合計画を作ろうとする自治体へメッセージをいただけますか。

菊地:総合計画を策定する時期になってから活動を始めるのではなく、数年前から研修やワークショップで社会的インパクトについては指標についての理解の醸成など、考えるための種をまいていくとやりやすいと思います。限られた時間で通常業務もあるなか、参加者の気持ちを一気に引き上げようとするとハレーションが起きるので、年月をかけて徐々に取り組む意味を理解できるように進めていくのが一番効果的なんじゃないかなと。

矢代:計画策定業務を完全に外注するのではなく、自分たちでやろうとするならば、どうしてもスケジュール通りにいかないことがたくさんでてきます。方法論を調べ、学び、考え、現場に立って汗を流しながらやっている若手に対して、管理職は覚悟を持って任せて見守ってもらえたなら、若手はきっとやりやすいはずです。多様な温度感の職員がいるなかで、協力を促し、合意形成に向けて応援の空気が役場内に増えるととても心強いと思います。

江川:自治体ごとに考え方も事情も違うので、全く同じやり方ではできないと思っています。「どこを職員全員でやるのか」「どこは総合計画担当者が作り込んだ上で担当課に確認するのか」など、裁量の配分を最初に整理しておくと良いのではないかと感じます。

北川:職員自らでやろうとする場合、推進を担当するチームにどういうメンバーがいるのかもとても重要な要素だと感じます。ともに進めていく担当職員それぞれが、多様なフェーズでリーダーシップを発揮することが必要な場面が出てきます。そう考えると多様な考え方と感覚をもつ職員が集まったこのチームだからこそできた総合計画かもしれませんね。

宮下:今回、総合計画づくりをともに進めた推進チームの職員は、当初からそれぞれの中に問題意識という種火があって、「自分たちでやるぞ」という目標を早期に共有できていたことは推進力を持つ上でとても大きい要素でしたね。やったことのないことをやるので当然うまくいかないことがありますし、大変です。それでもチームで目標を共有できているから、今回の取材のような振り返りの場でも、たくさん肯定的な感想や意見が出てくる。実は役場では、チームで一つのものをじっくり作り上げるという共同作業は意外と少ないんです。属人化している仕事が多いなかで、チームの「関係性の質」にこだわることが成果を左右すると言っても過言ではないと思います。いいチームメンバーと一緒にできて、本当に良かったし、たくさん学ばせてもらった2年間でした。

桑原:総合計画づくりを外部に完全に委託するのではなく、施策の決定から町民の声を聞きに行くインタビューやワークショップ、地域幸福度指標などの活用、そしてワードでかきあげられた総合計画。とても無骨だけど、積み重ねてきた時間と労力がどっしりと感じられる計画書になっていると思います。3年目のこれからは総合計画を「つくって終わりにしない」浸透と活用を組織内に根付かせていく時間ですね。みなさんと継続して挑戦できることが楽しみです。本日はありがとうございました。

厚真町役場の写真
<厚真町の総合計画策定概要>

●令和6年度(2024年度):課題の把握・構造化
「まちが抱える課題とは何か」を明らかにするところからスタート。中高生・一般町民・女性を対象にした計3回のワークショップで住民の声を集め、並行して庁内職員による担当原課ヒアリングも実施。15歳以上の町民1,000人を対象にした地域幸福度(Well-Being)アンケート調査により、データと対話の両面から課題を把握した。年度末には19の施策分野ごとに課題同士のつながりを整理した「課題構造マップ」を職員ワークショップで作成した。

●令和7年度(2025年度):ロジックモデル・指標の策定
課題構造をもとに、19施策を18施策に再編した上で、各施策の「やること→直接的結果→社会的インパクト」という流れを整理したロジックモデルを策定。日本生産性本部主催の研究会(全4回)への参加や、長野県小諸市への先進地視察なども取り入れながら、プロジェクトチームを中心に議論を深めた。年度後半に18施策それぞれの結果指標・インパクト指標の選定に着手。その後、議会の調査特別委員会へ素案を提出し、パブリックコメントを開始。

●令和8年度(2026年度):正式決定・計画始動
地域からの意見を反映させながら6月の正式決定・公表をめざすとともに、「つくっておわりにしない」ための、総合計画の職員浸透と活用推進のための職員研修を2026年7月から開始予定となっている。

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