2026/4/27 04:55
株式会社良品計画
インパクトマネジメント支援
企業
「社会的インパクトの可視化に取り組みたい。でも、どこから手をつければいいかわからない」
ESGやサステナビリティに取り組む企業が増える一方、こうした声は後を絶ちません。社会にとって良い活動をしているはずなのに、それをうまく示せない。社内の合意形成に苦しむ。株主や社会への説明責任を問われ、答えに詰まる——そんな状況に直面しているサステナビリティ部門の担当者は少なくないはずです。
株式会社良品計画では、2023年から地域における取り組みの一部でインパクト評価に着手。3年目となる現在では「ソーシャルグッド事業部」における複数事業のインパクト可視化に取り組みを進化させてきました。インパクト評価は一部の先進的な企業だけが取り組むものではなく、多くの企業が取り入れることで社会により良い変化をうみだす大きな力になると考えて取り組みを進めてきました。その可能性を、ソーシャルグッド事業部でインパクト可視化の取り組みをリードしてきた長山奨尉さんへのインタビューから探りました。

語り手:長山 奨尉|株式会社良品計画 ソーシャルグッド事業部 課長(写真右)
聞き手:桑原 憂貴|アンドパブリック株式会社(写真左)桑原 はじめに、社会的インパクトの可視化に取り組んだ「ソーシャルグッド事業部」について教えてください。
長山 株式会社良品計画は「無印良品」を中心に、衣食住に関わる商品やサービスを展開する企業です。「感じ良い暮らしと社会」の実現を企業理念に現在は国内外に約1,400店舗を展開しています。その中でもソーシャルグッド事業部は、地域と協働しながら課題解決に取り組み、それを持続可能な事業として展開することで、新たな価値創出を目指す部門です。
桑原 インパクトの可視化に取り組んだきっかけは何でしたか?
長山 もともと当社には、「目の前に困っている人がいたら助ける」「自分が汗をかいてでも役に立つ」といったカルチャーが根付いています。そのため、取り組みを丁寧に言語化して説明することよりも、まずは目の前で役に立つことを優先してきました。
一方で、良い取り組みを行っているにもかかわらず、それが社内外に十分に伝わっていないという課題がありました。2021年まで統合報告書を作成してこなかったこともあり、企業としてどのような取り組みをしているか、インパクトを生み出してきたのかを示しきれていなかった、というのが正直なところです。
そんな中でインパクト可視化に取り組む最初のきっかけは、役員全員が出席するESG推進委員会において、ソーシャルグッド事業の成果の可視化が課題として議論されたことでした。
ちょうどその頃、社会的・環境的な価値を金銭換算して、投資に対する成果を測る手法「SROI(社会的投資収益率」)を活用している事例を知り、「この手法を取り入れて当社の社会的インパクトを可視化してみよう」という話になったんです。
最初は新潟県上越市の「無印良品 直江津」による「移動販売バス」という中山間地をはじめとする、お買い物が困難な地域へ商品を届ける取り組みを試験的に評価してみることになりました。
私自身は2024年5月に入社し、この取り組みを引き継ぐ形で関わることになりましたが、「現場から生まれたソーシャルグッドな活動の目標やゴールが見えづらい」という課題をひしひしと感じていました。
そこで、「ロジックモデル*」を活用することで、社会に与えるインパクトをわかりやすく捉えることができるようになるのではないかと考え、社内で提案しました。

*ロジックモデル(上図)
社会的インパクトの設計図。インプット(投入資源)→アクティビティ(事業活動)→アウトプット(直接的な結果)→アウトカム(望ましい変化)→インパクト(社会環境変化)という因果関係を整理し、図示したもの。現場で起きている「地域社会の変化」を見つめる
桑原 その後、どんな実践が生まれたのでしょうか。
長山 2024年の冬から2025年の秋にかけて、ソーシャルグッド事業部が取り組む主な事業について、それぞれロジックモデルを策定しました。
策定にあたっては、各事業のメンバーと対話を重ねながら進め、アウトカム同士のつながりの確からしさを検討するだけでなく、一つひとつの言葉が持つ意味や印象、表現したい世界観を丁寧にすり合わせていきました。短期間で論理性だけを優先して組み上げるのではなく、事業に関わるそれぞれメンバーが大切にしている価値観や見ている景色を少しずつ言葉にしていくプロセスを重視して言葉を紡いでいきました。
こうして過程を通じて、「感じ良い暮らしと社会の実現」という企業理念と事業現場の実感がつながるメカニズムを描くことができたと感じています。一見、遠回りのようにも思えるこの積み重ねが、一人ひとりの納得感を高め、私たちらしいロジックモデルとして磨き上げていく、実りある時間となりました。
最終的には「いつものもしも」という防災活動と、「文化・アート・伝統」の活動についてSROI算出にも取り組み、統合報告書「MUJI REPORT 2025」の中で開示しています。

(画像転載:「MUJI REPORT 2025」 P63・64)

桑原 取り組む過程の中で、最も難しかった点はどこでしょう?
長山 1番難しかったのは、関わるメンバーそれぞれが強い思いを持って活動している一方で、「何を目指しているのか」が言葉として必ずしも統一されていなかった点です。そのため、既存の活動をもとに後付けで議論を重ねながら、目的や成果を言語化していく必要がありました。
抽象度を上げすぎると、どの企業にも当てはまる一般論になってしまい、逆に具体的すぎると全体像が伝わらないロジックモデルに陥ってしまいます。そのちょうどよいバランスを見極めることが、非常に難しかったと感じています。
またデータの収集と指標設定にも難しさがありました。「良いことをやろう」という思いは共有されていても、「ここを目指そう」という目標が最初から統一されているわけでは必ずしもありません。後付けで議論しながら指標を作っていくので、取得できるデータに限界がある場合もあります。
桑原 乗り越えるためのポイントはありましたか?
長山 「最初から完璧を目指さない」ことでしょうか。ロジックモデルは簡単には完成せず、何度も書き直しながら精度を上げていくものだと捉えています。
また、「継続的に取り組むための基盤を創るための現状の言語化」という考え方も支えになりました。担当者が変わっても、組織が変わっても、ロジックモデルとして残っていれば取り組みの意図がわかり、継続することができます。
組織である以上、活動を始めたその人がずっと、その組織に居続けるとは限らないからこそ、まず共通認識をロジックモデルとして整理して持つことは重要な最初の一歩だと考えています。
桑原 取り組みを通じて、どんな変化がありましたか?
長山 社内と社外で、それぞれ良い変化がありました。まず社内では、ロジックモデルをプロジェクトに携わるメンバーと一緒に作る過程で、「いま取り組んでいる活動の意図や目的が明確になって、社内でも発信しやすくなった」という声をもらいました。
目標やゴールが言語化されていったことで、チームの活動そのものの意味や目的が定義でき、関わるメンバーが共有することにつながったと感じています。
さらには、自社が取り組む活動の意義が伝わりやすくなりました。例えば、以前は、店舗で様々な良い取り組みが始まっていても、お互いの店舗や本部による取り組みを把握する術がありませんでした。今回、「MUJI REPORT 2025」に社会的インパクトとしてまとめることで「自分の会社は、こんなに良いことをしていたのだ」という共感が現場にも生まれたというのは大きな変化です。

桑原 社会的インパクトやSROIを開示したことでの社外の反応はどうでしたか?
長山 「MUJI REPORT 2025」で開示した時、SROIやインパクト評価について「このような形で表現できるのですね」という反応が多く、ネガティブな反応はほとんどありませんでした。評価にあたっては市町村のご担当者にもご協力頂き、「共に取り組みを進めていこう」という前向きな声もいただきました。
一方で、「MUJI REPORT 2025」において、社会的インパクトについては見開き1ページでしか表現できていません。
「業績だけでなく、社会的インパクトも含めてきちんと伝えよう」という想いは経営サイドにおいても強いため、インパクト評価という概念を組織内に浸透させながら、株主、お客様、従業員といったステークホルダーそれぞれに対して、活動の意義を説明できる試行錯誤を重ねていきたいと思います。
桑原 アンドパブリックとの協働は、どのような価値をもたらしましたか?
長山 自分たちの思いを言葉にするだけであれば、社内で完結できる一方、社会に発信していく上では社外の専門的な視点が必要です。世間一般からの見え方とずれていないかをチェックしてもらい、言葉遣いも含めて対外的に理解いただける形に整える必要がありました。
自社だけで進めると、どこか独自の価値観に偏ってしまうリスクもあります。
また、アンドパブリックさんには自治体やNPO、大企業との幅広いネットワークがあることに加え、単なる支援者ではなく、自ら社会的インパクトをうみだす実践者としてのご経験もお持ちです。
こういった活動の難しさを現場目線でよく理解していただいているというのも、ご依頼した理由です。

桑原 最後に取り組みを通じて、お感じになっていることを教えてください。
長山 社会性の高い活動をしているのに、その意義を説明しきれずにいる企業は少なくないと思います。収益に直結しない活動の意義を説明することは、どんな企業にとっても難しい課題ですし、社会的インパクトの開示も最初から精度の高いものができるわけではありません。
一方で、評価のあり方によっては恣意的と受け取られ、いわゆるウォッシュのように見えてしまうリスクがあることも意識する必要があります。だからこそ、データが不完全でも、指標が暫定的でも、客観性を担保したうえでまず形にすることが大切ではないかと感じています。
なぜなら、社会的価値を可視化することによって、働く仲間たちがその意義を実感し、自ら語れるようになると実感しているからです。さらに、そうした取り組みは社外からの共感や信頼を育み、結果的に事業の力へと転換されていくと考えています。
このように、社会的インパクトを見つめる方法論や開示の枠組みを知り、「やってみよう」と思える企業・団体が増えていけば、社会的な事業がより評価されやすくなり、社会全体の前進にもつながっていくのではないでしょうか。
私たちは、こうした社会的インパクトを可視化する取り組みが、他の企業・団体にも広がることを願っています。
桑原 自社のブランディングやPRのためではなく、事業活動の意味を言語化し、インパクトの最大化に社会全体で取り組んでいくために、地域に根差して事業に取り組む良品計画さんだからこその試行錯誤に挑まれていることがよくわかりました。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

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